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下落続いたマンガ市場、電子書籍の力で18年ぶり反転の兆し

ここまで、紙のマンガ雑誌とマンガ単行本の市場データをあげてきました。

 

これに、電子書籍の売上も加えると以下のようになります。

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 [Webサイト:にっぽんのマーケターhttp://nipponmkt.net/2014/06/30/whomor_shibatsuji-02/ より引用]

 

 

このグラフの、2012年~2013年をクローズアップすると、以下です。

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実に、18年間下落し続けていた、紙のマンガの売上ですが、ここに電子コミックの売上を加えると、18年ぶりに上向いているようなのです。

あくまで試算の結果ですが、出版不況とか、マンガの売上減と言われ続けている中で、マンガの売上そのものは上向きになっていく兆候が表れたと言えそうです。

データ元のインプレス社は、毎年7月に前年データをまとめて発表します。今年も、来月には新しいデータが発表されますので、楽しみな所です。

一先ず、ここまでのデータについて紐解いていきます。


◆電子出版・電子書籍・電子コミック

電子書籍の市場規模は、長年インプレス社が試算値と予測値を発表しています。
また、近年、矢野総研でも同様のデータを発表しています。

 

それぞれ、試算となっていますが、以前からこの試算をしているインプレス社のデータを見ていきます。

 

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[図表A: インプレス 電子書籍ビジネス調査報告書2014]


インプレスが発表しているのは「電子出版市場」のデータです。このデータは、電子書籍+電子雑誌=電子出版という内容です。

そもそも、電子書籍の販売金額や販売数のデータには、正確な実績値はなく、試算値のみとなります。国産の電子書籍プラットフォームの場合、eBookJapanは本邦上場企業ですので、情報開示をしています。また、めちゃコミックの㈱アムタスなども、自社の電子書籍売上について、プレスリリースをしたりしています。

 

一方、日本国内において間違いなく最大のシェアであろうamazon/Kindleは、その売上を開示していません。Kindleのみならず、amazonという会社自体が、その売り上げ情報のほとんどを開示しない方針です。その為、電子書籍市場と言うのは、世界のどこに行っても「試算」とならざるを得ません。

そのamazon/Kindleの売上がどれ位かと言う事については、明言されているシーンはないのですが、非公式な場では、推定で300~400億円位であろうと小耳に挟んだことはあるかなぁというところです。(こればかりは、根拠はありませんので、あてにしないでください。)判っていることは、まず間違いなく、amazon社が日本や世界において、電子書籍売上のトップランナーだろうということです。(除く中国)


さて、この試算された電子書籍の売上データに対して、日本では昔から、その80%がマンガの売上と言われています。その為に、電子コミックの売上は、電子書籍売上×80%=電子コミック売上 という形で算出しています。グラフにして、電子コミックだけに数字を入れると以下です。

■グラフ:電子書籍売上と電子コミック売上試算(単位:億円)

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[インプレス 電子書籍ビジネス調査報告書より試算して作成]


このグラフから何点か見えてくるものがあります。

順調に推移している電子コミックの売上ですが、2010年から2011年で一度微妙に下がっています。
これは電子コミックの主戦場が、ガラケーからスマホタブレットに移ったタイミングになります。

図表Aでは、2011年から「新たなプラットフォーム向け電子書籍市場」という表現を用いています。これはスマホタブレットを指す言葉です。この2010年まで、日本の携帯電話市場はガラケーが圧倒的でした。そして、電子コミックについても、ガラケーに特化して編集した、成人向けマンガが圧倒的な売り上げを占めていました。

 

市場にスマホが流通した当初は、ガラケーのようにキャリアを通じた効果的な課金が難しい状況でした。同じような電子コミックを同じようにスマホで売ることは出来ず、一瞬の低迷となりました。その後、Kindlekoboの参入など、多くの電子コミックプラットフォームが、成人向け以外にも、一般向けの電子コミックを売り出すことにより、利用ユーザー増加と共に、更に市場が急成長してきている経緯があります。

ガラケー&成人マンガ」→「スマホ&一般マンガ(含む成人マンガ)」というシフトが起きたという構図です。


◆既刊本の電子コミック化ラッシュ→終了後の動きは?

また、近年の電子コミックの伸びには、もう一つ「既刊本の電子コミック化ラッシュ」という裏事情があります。

スマホシフト後の電子コミック黎明当初、ベテラン漫画家鈴木みそさんが注目を浴びました。個人の作家が、作品制作以外にもプロモーションを強かに行う事により、実際にかなりの売上をあげ、尚且つamazonのランキングでも上位を抑えていた時代があったわけです。

 

しかし、2011年から、たった3年で電子コミックの市場が倍加した背景には『ドラゴンボール』『ONE PIECE』と言った、既刊本の多い超メジャータイトルが、一気に電子コミック化し、それが購買機会に繋がったという考え方もあります。現在、主要な電子書籍プラットフォームのアイテム数は、軒並み20万アイテムを超え、「取りあえず電子化されたので買う」という、電子化特需は一巡したとみられます。今後は、沢山の「売れると判っている」ヒット作品が一気に電子化されるということはありません。

 

この事は、一部業界の中で、「個人作家の活躍がメジャー作の登場で低迷する。」とか「電子化一巡で、以降の電子書籍は低迷する。」という危惧を持って見られていましたが、所謂ユーザーベース(そのサービスを利用する人数)の増加に伴い、新たな需要の喚起にも繋がっています。

 

先日、アメトークで「キングダム芸人」が話題になり、『キングダム』が軒並みに大売れしました。

上記は、大手取次店ニッパンの記事ですので、紙のマンガにのみ触れていますが、実はこの時期全37巻の『キングダム』kindle版が、しばらくの間kindleのトップ40作品に全て入るという状況が続いていました。しかも、出たばかりの『進撃の巨人』最新刊などまでが、38位などに追いやられた状況でした。Top20は長い間『キングダム』一色でした。

 

メジャー作がネットの店頭に並ぶと落ち込むのではないかと言われていた鈴木みそさんの作品も、相変わらず元気です!

鈴木みそさん自身が、体験したことや、業界のキーマンにインタビューした内容など、eBookJapanの電子雑誌『KATANA』誌上で連載されていたものが、新刊単行本として発売されます。 

 

ここからは、ユーザーベースが確立した各プラットフォームなどで、出版社や作家、マンガの送り手側が、どのように作品を作り、売り出していくかが問われるフェーズとなっていくと思います。前回のエントリーでも書いた通り、この2年で急成長しているマンガアプリも、comicoは1000万ダウンロードなどと派手なユーザーベースを確保していますが、そこから売上をあげる、マネタイズはまだ途上です。

 

また、紙のマンガ市場が低迷を続けてきた中で、実は同時に、一つの作品がマネタイズされていく方法も、本の売上に留まらず変化してきました。実際、マンガをビジネスとして捉えた場合、雑誌や単行本の売上だけを見ても意味がない状況に、近年はなってきていると思います。この辺り、分解して今後書いていきたいと思います。


告知1:
『でんしょのはなし』単行本刊行記念!「第二回 電子マンガサミット開催!」
鈴木みそさん、うめ(小沢高広さん)、赤松健さんが電子マンガについて語る、あの伝説のイベントが帰ってきた!

『第二回 電子マンガサミット開催!』 – LOFT PROJECT SCHEDULE

超面白いですよ。取りあえず、わたしも行きます。

 

告知2:
ブックフェアにて、コルク佐渡島さんと著者がパネル登壇します。

ネット時代に、新人がどう発掘されるかというような話をします。

 

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