漫画の真ん中

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「俺の事マンガに描いて良いよ」と言われた漫画家の反応と、雑誌以外の漫画仕事のお話。

半笑いでプロに言ってはいけないこと

先日のエントリーは、多くの方に読んでいただきました。

この最後の3行に、プロ作家さんから沢山レスをいただきました。

余談ですが、プロの作家さんを前に軽い気持ちで「おれさ、良いアイディアがあるんだけど、マンガにしてよ!」ということを言うのって、気を悪くされるので自重されたほうが良いと思います。って話は、また今度書きますか。

 

いや~、皆さん良くあるようで「あるある」大会になっていました(笑)

やっぱり、みんな言われるんですね。 

 

 

ベテランの鈴木みそさんは、防御手段まで完璧です。

 目で殺すって、みそ先生(笑)

 

そんな中、ご自身のfacebookページで、かなりがっつりとレスを下さったのが、佐藤秀峰さんでした。


一部引用させていただくと、

漫画家になると、昔の知り合いから「こんな話があるんだけど漫画にしない?」とか「俺が原作描くから、お前が絵を描いてくれよ」と言われることが時々あります。

飲みの席なら笑いながら聞けるのですが、絵を描けてストーリーも自分で作れるのに、わざわざプロじゃない人を原作につけてフォローに苦慮しつつ、権利関係が複雑化したり、売り上げをシェアして自分の儲けを減らすことに意味を感じられないので、正直、あまり真面目には取り合いません。

飲食店を経営していて、お客さんから「新しいメニュー考えたんだけどお店で出さない?アイデア料は…」と言われても、多分、取り合えないですよね?

 

もうはい、その通りだと思います。最後の、居酒屋の件は、自身でWebサイトを運営されている経営者の目線が入っていて、かなり説得力があると思います。

他にも、色んなレスがあったのですが、漫画家さんはガンガン発言されているのに対して、プロの原作者さん達は、特に何もコメントせずに、ニヤニヤされていたのが印象的でした。プロの矜持なのでしょうか^^

 

「雑誌や単行本にマンガを描く」という以外のマンガ仕事の世界

佐藤さんのレスで、凄いなと思ったのが、ここです。

先日は、企業の商品開発秘話を漫画化したいとのご希望をいただき、作家さんをご紹介し、2者間の契約書の作成をお手伝いしました。
企業側が企画と予算を用意、取材の手配などもし、漫画家が企画に沿ってネームを切り、作品を制作します。
報酬に関する取り決めはもちろん、打ち合わせ方法や修正依頼を出せる回数や時期の制限、成果物(漫画)の納品方法、時期から利用の範囲まで細かく契約書に落とし込み、制作が行なわれます。
細部まで決めておかないと、必ずと言っていいほどトラブルになるのですよ…。
そういった仲介の場合は、契約書作成の実費だけいただいてます。


「報酬に関する取り決め」までやると言及されていまして、これはもう完全に組織的に動けるところまで、(有)佐藤漫画製作所(佐藤さんの会社)では、機能を持っているんだなと思いました。

 

漫画誌に連載する、一般的なプロ漫画家を目指す場合、ともかく最優先される機能は「作品の品質」と「安定供給」です。
要は「面白い作品を〆切までに出す」事さえできれば、ビジネス機能上は十分です。

勿論それが一番大変で稀少なわけですし、それ以外が出来ないからダメというお話ではありません。むしろ、漫画誌で連載を続ける限り、限りなくその部分を練磨し続けなければならず、そこが最も価値になるわけです。

そして、漫画編集者や出版社の持つ様々な機能は、漫画家が「面白い作品を出し続ける」機能を最大限発揮できるように作られてきています。

 

他方、佐藤さんが触れている、企業から依頼される広告などのマンガ(ここでは「企業漫画」とします。)を作って仕事とする行為は、上記で言う、漫画編集者や出版社が持つ機能を、出版社以外の人、場合によっては漫画家自身がかなり代行する必要が出てきます。

前回のエントリーでは、企業漫画の大手、アドマンガさんやシンフィールドさんを紹介しました。
その企業漫画を作って売っていくには、大よそ4つの機能が必要だと考えています。

  1. 営業(マーケティング)
  2. プロデューサー(ディレクター)
  3. 漫画家(マンガ制作)
  4. 編集者(版面制作)

漫画誌に作品を掲載する漫画家であれば、3の漫画家面が主な仕事になります。(他のことを全くしないということはありませんが、比重というか優先度は90%以上だと思います。)それ以外は、主に出版社の担うところです。

 

企業漫画制作の場合、上記4つの機能をそれぞれ解説すると、

1, 営業(マーケティング)

 これは、マンガを売るのではなくて、案件を取ってきて、その価格を決めることが最重要なお仕事です。
取りあえず、何の実績も知名度もない場合、問い合わせが来るはずもなく、普通の企業であれば、汗をかいて企業を回ったり、Web上でお金をかけて広告を出したりします。打ち出し方を上手くすれば、違う方法で仕事を取る事が出来るかも知れません。

2, プロデューサー(ディレクター)

 この役割分担であれば、納期を管理しながら、企業の望むもの、望む成果を得られるように全体をコントロールする仕事です。良し悪しを決め、お客さんに判断させる材料を揃えます。例えば、お客さんがある業界であった場合、その業界の知識を持ち、納品される企業漫画に、予算に見合った機能が実現されるように仕事をします。

3, 漫画家(マンガ制作)
 ここではともかく最初に、創作よりも企業漫画制作としての機能が求められます。一旦、顧客やプロデューサーなどが示す、仕事の目的や目標を飲みこみ、その後、その話を漫画として面白くするために、第2段階として改めて創作していきます。(そこは、佐藤さんが触れている部分だと思います。)

4, 編集者(版面制作)
 出来上がったマンガが、納品する形態に合わせた版面になるように仕事をします。また、漫画家が作品を作っていく過程に、漫画家さんのタイプに合わせて介在します。一緒に作品を作るタイプから、見守るタイプまで3と4のマッチングによって色々な関わり方があると思います。プロデューサーを兼ねるケースも多いと思います。

 

トキワ荘PJの事業の中では、ありがたいことに、毎月結構な数の漫画仕事のオファー頂きます。
以前は良く、いただいた仕事を割となんでも請けて、1と2の機能を自分で担いつつ、3や4を入居者などと調整して作品を作るテストプロジェクトをやっていました。(最近は外部の編集者さんと仕事をしたり、最初から他の会社に振ったりしてます。)

予算を考えながら仕事を回す場合、つい4は抜かしたくなるのですが、4を抜かして、2と4の間で、漫画として読みやすさや面白さと、企業漫画として機能性の間でのせめぎ合いになる打合せをしっかりしないと、マンガが魅力的にならないという経験もしてきました。

また、根本的な問題ですが、1の営業がないと仕事そのものが始まりません。

佐藤さんのケースでも、私のケースでも、最初は「問合せ」から話が始まっています。
これは、自分から営業せずとも仕事が来る状態ですので、かなりの工数が不要になっています。(そうなるには、沢山の積み重ねがあったわけですし、常に話題作りなども必要ですが。)

 

また、最初に書いた「凄い」と思った点は、どうも佐藤さんは2-4までを一人でやっているフシがあるのですね。(1も含みつつ)

やってるフシがあるというのは、これまでの佐藤さんが発表されてきた内容を紐解くと、取材や作品の構成など、かなり広範な仕事を一人でやられている様子が垣間見えるところから推測しています。漫画家としては稀有な存在だと思います。

 

先ほどから「機能」と意識して書いていますが、これは別に、必ずそういう名前の人がいなければならないわけではなくて、出来るなら全部一人でやっても良いわけです。ただ、素人仕事ならいざ知らず、人様からお金をいただいて、プロとしてその仕事をやり切るのは、仕事そのものも大変ですが、それを習得することはもっと大変です。

 

佐藤さんの説明では、これを「契約書に落とし込み」とあります。まず業務分解をして取り決めを作り契約書にまでするのがとても大変で、次にそれを、しっかり進行管理するのが、これまた大変です。単純に弁護士さんにお金を払えば良いというものでもないですし、あんまり細かく契約書を作ると弁護士費用が高騰しますし、縛られ過ぎて仕事が出来なくもなります。

ただですね、私はなんとなく、佐藤さんならそこまでキッチリやるのであろうなと、改めて思います。これは、能力と言うか意志の力だと思います。

 

一般的な話をすると、例えば私の場合、1と2は過去のビジネス経験からやることが出来ます。コルクの佐渡島さんが言う「エージェント」という仕事は、今の所1と2と4の機能だと思います。どうかなぁ、佐渡島さん、今度聞いてみよう。

そしてここが肝心なのですが、マンガ雑誌で仕事をしていた普通の漫画家が、企業漫画を仕事とする場合、踏まえる必要があることが多くあり、上記の各機能を代行してくれる人がいれば良いわけですが、実際は1つ2つの機能を作家側が兼ねることが必須になるだろうということです。ですが、漫画家の仕事のパートナーとして、色んなことが代わりに出来る人はあまり世にいません。

 

例えば、こんなお話がありました。

これはまさに、私からすると、誰が悪いというよりは、この案件に、上記の1と2の機能が欠けた結果なのですね。

飽くまで理想ですが、営業が、最初に話をきっちり決めて来て、プロデューサーが、約束事を都度しっかり双方に説明しながら仕事を進めていけば、トラブルは減ります。(それでも起こりますけども。。)それなしで上手くいくケースは、発注元や作家などが、上記の特に1や2の機能を果たし、円満かつ意思疎通が図れている状態で仕事が回った時ですね。これを担う際に最も合理的なプレイヤーは、漫画家なんですね。

 

マンガ制作経験の無い発注元と話をする際に、私が良く行う説明があります。簡単に書くと、

【説明】
マンガ制作には、いくつかの段階があります。個人差もありますが、以下のような手順です。
1, プロット作り 2, ネームづくり (2.5, 下書き作り) 3, ペン入れ 4, 納品

「このうち、2→3の部分にGoをかけて、作業が3まで到達した場合、少なくとも原稿制作料が100%発生する。」と認識してください。

 

意味合いとしては、「中華料理屋でメニューを見て蟹チャーハンを頼んでおいて、出てきた蟹チャーハンに納得できないので、食事代を払わない。」ということは、普通は許されない、ということです。なので、ネームや下書き(中華料理のメニュー)の時点で、明確にイメージできるように、仕事を進める必要があります。

 

 と、ここまで、漫画業界の中で、これは常識と見て良いと思いますが、業界外の人でそういう認識を持っている人は、なかなかいません。私の知る限り、出版業界の中でも、マンガ制作経験がない編集者さんは、ネームとペン入れの境目を知らなかったりします。その際の言い分は、上記のリンク先のの通り「下書きではイメージが判らない」というもので、これはもう、そこらじゅうで炎上しています。

 

そこで、企業漫画ではプロデューサーの出番です。例えば、色見本やタッチ見本を駆使して、両社のイメージを擦り合わせたり、それこそ契約書や覚書、そこまで難しければ、議事録やメール記録を残して、「ペン入れしたら費用は満額発生する。但し、発注元に判るように、完成前にイメージが共有される努力はする。」ということを、しっかり決めて、双方合意を重ねながら仕事を進めていくことですね。

 

しかしながら、この漫画関連の仕事のプロデュースを出来る人が圧倒的に少ないのです。作家さんや関係業者さんと擦りあわせ、モノやコトを作り、しっかりと行う人が不足しています。

と言う事で最近は、企業漫画に限らず、例えばTwitterでバズを生んだ作家さんなどのプロデュースをしたいなどと考えていて、イベントや商品化、キャラビズなどのプロデュース実績がある方を集めて、勉強会をしたりしています。今の所、実験段階なのでクローズですが、いずれは成果を公開したり、規模を大きくしたりしていきたいと考えています。(一応私も、いくつか実績が。)

 

 

どうも、このエントリーはそこらじゅうに穴があって、炎上しそうな気もするのですが、長くなってしまったので、一先ずこのあたりでアップいたします。続編をまた書くと思います。

 

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