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2014年電子コミック市場規模は1000億円超!電子コミックはマンガ業界の救世主となったか?

毎年、7月の東京国際ブックフェアの時期は、インプレス社が電子出版(電子書籍)市場の前年度データを発表する時期でもあります。

株式会社インプレス|ニュースリリース - 2014年度の電子書籍市場規模は前年比35%増の1,266億円 

 

◆電子出版、電子書籍市場規模の実績と予測(2015年版)

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[『電子書籍ビジネス調査報告書2015』インプレス社より作表]

毎年、実績値や過去の予測値から、大きなズレもなく推移していますが、5年後の2019年予測は 3000億円ということで、率で言えば大きく成長の見込まれる市場として期待されます。

 

ここからは、更に試算(*1)をし、電子コミック市場について見て行きます。

 (*1) そもそも、インプレス社の電子出版市場のデータは実測された実績値ではなく、調査会社として専門的に調査された試算値になります。

 

 2014年までの電子書籍市場の推移から、以前より言われている
電子コミック売上 = 電子書籍売上 × 80% という法則を適用して、電子コミック市場の推移を試算します。

 

◆電子コミック市場規模試算(2015年版)

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[『電子書籍ビジネス調査報告書2015』インプレス社より作表]

 

ついに電子コミックの売上が1000億円を超えてきました。このグラフの過去のデータ推移などは、先日のエントリーでも紹介させていただきました。

 

 この試算値と、先行して今年の『出版月報2月号』で発表されている、2014年までの紙のマンガ市場規模とを合わせたグラフが以下です。

◆紙+電子コミック市場規模(2015年版)

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[『電子書籍ビジネス調査報告書2015』および『出版月報』より、試算して作表]

 

先回エントリーでは、紙と電子を合わせると、コミック市場は、わずかに上向いているのではないかということを説明しましたが、今回、明らかに合算値は反転して上向いていることが見て取れます。

 

取次準大手・栗田出版販売が民事再生申し立て 負債135億円 - ITmedia ニュース

栗田出版から一連の倒産など、出版業界に激変が襲っている中、この数値は大きな構造の変化と、プレーヤーの交代を実感させます。

 

私は今回のデータを作るにあたり、「電子コミック市場=電子書籍市場×80%」という法則について改めて確認したくなり、大手電子書籍プラットフォーマーさんに、売上に占めるコミックの割合を確認しました。

結果、少し驚く事に、その会社さんでは、電子書籍売上に占めるコミックの割合は80%を優に超え、もうちょっと上目ということでした。むしろ、上記試算は、少な目に見ていると言えるかもしれません。

 

ここまで作表して、ふと思いました。電子出版・電子書籍市場は2019年までは予測計算されているわけですが、紙のコミック市場については予測をしているところはありません。そこで、エクセルで普通に使える式「近似曲線」を用いて、2014年から10年分~2年分の過去データを使っての試算値を何種類か作ってみました。

10年分のデータ(2005-2014)から試算すると、以降毎年平均6%の下落ということでバッドケース。3年分(2011-2014)から試算すると、毎年平均4%の下落と言う事になり、ベターケースとなるかなと考えました。これをそれぞれ2019年までの電子コミックの市場規模予測と組み合わせて試算すると

(試算)紙+電子コミック市場規模2019年まで-2015年以降4%減少ペース 

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(試算)紙+電子コミック市場規模2019年まで-2015年以降6%減少ペース

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[ともに『電子書籍ビジネス調査報告書2015』および『出版月報』より、試算して作表]

上図の紙コミック市場4%減少シナリオの場合、2019年には、2000年頃の市場規模まで回復しています。同時点で、紙:電子比は、6:4となります。

バッドケースの紙コミック市場6%減少シナリオの場合、コミック市場の5000億円戻しは恐らく2020年頃と推測されます。同時に、この年に電子コミックが紙のマンガの売上を超える瞬間を迎えるという予測になります。隔世ですね。

 

今の電子コミックやマンガ業界を取り巻く環境は、まだまだ変化の兆しや可能性を多くはらんでいます。

今の所、この電子コミックの売上は、主に漫画単行本を販売する、「amazon/kindle」、「ebookjapan」、「LINEマンガ」、「honto」や成人向けに強みを発揮する「めちゃコミック」などが中心勢力となっています。

しかし、先日アプリ1000万ダウンロードを達成し、電子コミックアプリとして存在感を強めているcomicoは、なんとまだ「電子書籍」においては1円の売上もあげていません。800万ダウンロードで追随するマンガボックスについては、アプリ上の広告や、アプリ送客などの強化とともに、アプリ内に電子書籍ストアを作ったばかりです。

ここまでの情報、掘り下げると考えられることは沢山ありますので、データについては改めて記事にしたいと思います。

 

で、結局漫画家や編集者はどうすれば良いの?

まだまだ、この変化は注視し続ける必要があると思います。そして、この時代の変化を捉え、漫画家や編集者、その周辺に関わる方々に読んでいただきたいのが、鈴木みそさんの『でんしょのはなし』や『ナナのリテラシー』などの、電子コミック最前線ルポ漫画です。

 

ナナのリテラシー1 (Kindle Single)

ナナのリテラシー1 (Kindle Single)

 

 鈴木みそさんのマンガが、今アツいのは、通常こういったビジネスに近い所のルポや体験談などの最新情報は、マンガになる前に文章で紹介されるケースの方が多いわけですが、ご自身が最前線で経験したことを、情報としての鮮度を失わないタイミングでマンガにされているところです。

 

2015/11/16追記-------------

こういった現状を打破すべく、MDCを開始しました。

MDC:マンガディベロッパーズカンファレンスは、デジタル化を前提と受け止め、その中で、漫画家が、編集者が、漫画に関わる全ての人が、どう振舞っていけば良いか、毎回のテーマに基づき考え、ディスカッションし、仲間を見つけ、問題を解決していく場です。実際、漫画家・編集者を中心とした、多くのプロが集まってます。

MDCについては、こちら。

直近のセミナーについては、こちら。

-------------------------追記ここまで。

 

告知1 最新事情を学べるセミナー(東京&京都)のご案内 

また、更にそれより最新の情報については、ここ2週間で、東京と京都でイベントとして見ることが出来ます。

 東京では、7/25(土)に、鈴木みそさん×佐渡島庸平さんのコンビで渋谷にて。

関西では、8/1(土)に、鈴木みそさん×私(トキワ荘PJ菊池)で、京都国際マンガミュージアムにて、それぞれセミナーを開催します。

マンガファンにとっても面白い話が聞けるかと思いますが、漫画家、編集者、電子コミック関連の仕事をしたい人には、必見の内容であり、タイミングだと思います。

それぞれ、席に限りがありますので、お申込はお早めに。

 ---2015年9月追記。本イベントのアフタレポートです。

告知2 週刊マンガ誌6誌から、最新のコミックアプリまで、59編集部が集まる、マンガ出張編集部@京都国際マンガ・アニメフェアは、9/20(日)開催! 

電子コミックが伸びていると言っても、現時点で売上をあげているマンガは、紙の雑誌で連載していたものが、紙の単行本になり、電子化されたというものがほとんどです。同時に、伸長著しいコミックアプリの各編集部も、その新しいスタイルに合う、新しい作家を求めています。

 

ということで、今年も京都版トキワ荘事業/トキワ荘PJでは、京都にて出張編集部を開催いたします。とにかく、新人から、現役作家まで、主要メジャー誌から、最新デジタルコミック編集部に、1日のうちに1カ所で作品を見せ、色々なことを吸収できるチャンスです。初体験ドキドキの持込み度胸試しから、ベテラン作家の営業まで、年に1度のせっかくの機会を活かしていただければと思います。

 

京都に起こしの折は、同じく開催している、京都国際マンガ・アニメフェア(こちらは有料)を観覧しても良し、京都国際マンガ・ミュージアムも良し、普通に京都観光も良しです。持ち込みには、事前登録が推奨です。

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[出張編集部の様子]

-----2015年10月追記。本レポートアフターレポートです。