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漫画の真ん中

マンガ業界データや動向、新人漫画家支援のことなど。

月額325円のアマゾンプライムでマンガは読み放題になるか?

漫画業界データ/news

 アマゾンのプライム会員サービスに、"Prime Music"が追加されました。 

 映画やTVドラマ、アニメなどが見れるプライムビデオに続いてのサービス開始です。

これが、マンガに展開した場合、どのような影響を与えるか考えてみます。

 

Prime Musicとは、amazonPrime会員(年会費3900円/月額325円)であれば、国内外のアーティストによる100万曲以上の楽曲を楽しめるというものです。先行するapple musicやAWAとの大きな違いは、同様な動画版サービス、amazonプライムビデオなども、同じ年会費の中で利用できるという点です。

つまり、Primeという一つのサービスで、AWA(定額音楽聞き放題月額1080円)同様の音楽聞き放題と、Netflix(定額動画見放題月額650円~)同様の動画見放題という2つサービスに一度に入ることが出来、総額も安いというかなり破壊力のあるサービスです。

私もこのエントリーを”ロックヒッツ”というプレイリストを聞きながら書いています。今はyoutubeがあるとはいえ、元々プライム会員であったため、この曲が体感的には無料で聞けてしまうということは、驚きを通り越して、複雑な気分になります。


マンガから見ると、amazonといえばkindleです。

いずれ、kindleのマンガもこのプライムの中に全て入るのか。どうやって入っていくのか。


現状を考えると、音楽や動画も全ての作品が対象ではなく、マンガの単行本が読み放題になるというイメージこそつきにくいのですが、現時点で無料配信のマンガ雑誌やWebマンガもありますし、ファッション誌などの定額読み放題サービスは、定着化した感もあります。

 

デジタル化で先行する音楽業界はCD→ライブへシフト

今回のサービスを含め、デジタル化で先行する音楽業界を見てみます。

現在、音楽業界では、ダウンロード販売youtubeの影響で、CD販売は減少する一方、ライブが増えていると言われています。

◆音楽ソフトの金額の推移◆

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日本レコード協会「日本のレコード産業2015」より)

◆ライブ市場の年間売上額の推移◆

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コンサートプロモーターズ協会「基礎調査報告書」、「基礎調査推移表」より) ※データはACPC正会員社を対象とした調査結果(日本全体のライブ・エンタテインメントの市場規模とは異なる)

[ともに、NIKKEI TRENDY NET より引用 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20150515/1064488/ ]

 

また、同記事にもあるように囲い込みとしてのファンクラブ活動は、ネットとスマホの普及で加速化しています。また、アーティストやバンドのグッズ商品化も増えています。アーティストごとに香水を売るとか、サイリウムが、アーティストごと、ライブごとに作られて販売されることも、もう珍しくはありません。

 

先日、ミュージッククリエイターエージェントさんという団体で、逆に音楽業界の方向けにで、デジタルコミックの現況などについてお話をさせていただきました。

その際うかがったところによると、確かにメジャーレーベルは、CD売上の落ち込みからライブに遷移した動きはありますが、元々インディーズとしてライブを続けてきた方々からすれば、そこはあまり変わらないという認識もあるということでした。

 

マンガにとって回帰する「ライブ」に当たるものは?

さて、マンガにおいて、CDとライブは何に当たるでしょうか?また、ファンクラブ化やグッズ展開はどうなっているでしょうか。素直に考えると、CDの立場に似るのは、作品をパッケージング化して販売するマンガの単行本にあたりそうです。また、ライブと考えた場合、その時その時の生の作品と呼べるのは、連載作品を掲載するマンガ雑誌がそれにあたるかと思います。

最近は以前に比べると、漫画家がトークライブなどをすることも増えていますが、それそのものは、創作したマンガをコンテンツとする場にはまだなっていません。一先ず、このあたりの関係性が妥当でしょうか。

 

マンガ単行本、雑誌のデータを見てみます。

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紙全体のマンガの売上を表す、オレンジの線は20年ほど下落続き、雑誌をあらわす青線も20年連続下落中です。一方、紙の単行本の赤線は維持され続けています。

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[『電子書籍ビジネス調査報告書2015』および『出版月報』より、試算して作表]

また、紙の雑誌・単行本に、デジタルコミックの売上を足すと、2013年を境に、紙とデジタルを合算した売上そのものは、反転して増加しています。デジタル化が良い影響を与えているようにも思いますが、それほど単純な話でもありません。

このあたり、詳しくは、こちらのエントリーをご覧ください。

 

どうも、CD=単行本というのは、今のところあたらないようです。電子コミックについては、有望な市場として今年以降も延びていくと試算されており、当面紙とデジタルを合わせたマンガの市場は成長し続けると見られます。

また、ライブ=雑誌とらえるのも早計のようです。いまは、売上にはカウントされないWebマンガや、comico/マンガボックスと言った、同じく無料で読めるマンガアプリも全盛と言える勢いです。

どうやら、ライブに当たるのものについては、過去の雑誌がそのまま戻ってくるとは考えにくそうです。

 

ネット上では、Webサイトやアプリなどが、マンガ雑誌に代替してきています。また、特にこれまで商業漫画とは直接繋がらなかった、グノシーなどのニュースアプリが、電子書籍取次ぎという新勢力から漫画の提供を受け、潤沢なニュース読者を相手にデジタルコミックを提供するような取組も始まっています。

マンガにとって「ライブ」にあたる部分は、現状絞込みはなされておらず、複数のパターンが候補になっているという状況です。

 

また、これまでのマンガの中では、ファンクラブにあたるものは、定期的に刊行するマンガを購読するという緩い紐帯でした。誰もがスマホを持つ現在、更新のたびにスマホからプッシュされる情報で繋がる、新しい形のコミュニティ化、ファンクラブ化がマンガにも少しずつ浸透しています。最も先行しているのがcomicoと言えると思います。

ゲーム業界には、アプリや会員制サイトで囲い込んだユーザーを、そのコミュニティの中で楽しんで定着化してもらう技術として、コミュニティマネジメントという概念があります。ソーシャルゲームで先行する企業はこの点で優位性を持っています。

 

現状に対する、漫画家サイドの取組

また、デジタル化にあたっての取組は出版社だけのものではなく、漫画家側も個人やエージェントが様々な取組をしています。

これだけ沢山の、読者との接点がある現在、漫画家から見た場合、一つの作品を一つの雑誌にだけ掲載するということは、作家からすればリスク、読者から見れば不便、といえる状態になっているかもしれません。

その為、制作した作品を、複数のメディアに提供して「連載」する取組も出てきました。

 

これは、単純に雑誌に回帰するということのみではなく、雑誌が持っていた機能をネット上でどう再現するかという取組ともいえると思います。即ち「安価に多様なマンガが定期的に読める。」という機能です。

ただ、雑誌には漫画を制作するためのキーパーソンとなる編集者の存在があり、現状で編集者なしに濃密な作品を定期的に制作することは、これまでの漫画家のスタイルにとっては難しい事情もあります。現状の出版社や編集プロダクションがこれに対応するか、フリーの編集者やもっと上の概念のプロデューサーが、マンガ作りに関わっていくことも考えられます。

 

筆者は、定額読み放題サービスで、逆に雑誌が復権することも考えられるかと思います。
単行本はあくまで、有料・キンドルでというポジションを維持しつつ、沢山のユーザーが利用する、定額読み放題サービスの中で、漫画雑誌が覇権を競うのは、次のシナリオとして面白いかもしれません。それなら、現在の、編集部&出版社体制も維持出来ます。そうすれば、マンガも今までどおり作れるかもしれません。

 

ただ、ここまで様々なパターンを論じましたが、これら全てが同じ土俵で公開されるとすると、ますますネット上にはマンガのほか、動画、音楽と様々なコンテンツが乱立します。

これらを見据え、例えばコミックナタリーのWebマンガ更新チェックサービス「Pinga」や、マンガ書評サイト「マンガHONZ」、近日公開予定のマンガキュレーションサービス「漫画新聞」などが、「今はどの作品が面白いのか?」という情報を発信する役割として、重要になってくるのかもしれません。

 

多様な作品の展開パターン

 マンガを中心に、様々なジャンルへのビジネス展開(IP展開)は多様です。

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日本動画協会が作成する、アニメ産業レポートによると、この周辺展開は2013年ベースで、最低1.5兆円規模といわれています。

その市場規模の中で、最もインパクトが高いのが商品化(=グッズ制作販売)です。

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IP展開に占める商品化の割合は、実に40%です。

音楽業界では、ライブにともなったグッズ販売が主たる収益となっていますが、現在、既存勢力でも、新勢力でも、マンガからのグッズ販売について動きが出始めています。

 

マンガディベロッパーズカンファレンス

こうした、マンガのデジタル化に伴う変化については、未だ答えが出ていません。ここで答えを出そうにも、デジタル化後の世界は、漫画家や出版社が、単独で全てを完結させるのは、難しいくらい複雑な状況になっていると私は考えます。

 

そこでトキワ荘プロジェクトが新事業として開始したのが、マンガディベロッパーズカンファレンスです。これは、誰かがもっている答えを聞きにいくセミナーではなく、テーマを投入する人を中心に、マンガの関係者が集まり、ディスカッションをし、答えを探りながら一緒に仕事をする仲間を作っていく場です。

 

今週末11/21は、電子コミックでは国内でも最前列にいる鈴木みそさんの回です。

 

その次、11/28は、フーモア社の芝辻さんを迎え、Webマンガの次の可能性である、宣伝マンガについて「完読される宣伝マンガ」をテーマに、ディスカッションします。

 

 どちらも、デジタルコミックの世界での戦いに課題を感じている方には、良いヒントになるディスカッションや、同じくそこに向かっていく仲間の集まる、良い場になっていると思います。今回の件に関心のある方、是非一緒にディスカッションしましょう。

 

 

この手の話の基礎知識として、この2冊はおすすめです。中野晴行さんの本。

 

動画なら、こちらもおすすめです。

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